日本薬理学雑誌
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特集  看護に必要とされる薬理学教育とは:看護学教育モデルコアカリキュラムの策定と指定規則改正を踏まえて
急性期病院の看護の現場からのメッセージ―安全な与薬のために看護基礎教育に何を求めるか―
小見山 智恵子
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2021 年 156 巻 2 号 p. 92-96

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抄録

急性期病院において看護師がかかわる患者像は多様化しており,用いられる薬剤も多種多様である.与薬の際,看護師はまず指示内容を理解し,患者にとって安全な指示であるか自身が実施できる内容かを判断しなければならない.そして薬剤を調製する作業を経て,最終実行者として与薬する役割を担う.一連の過程を通して,正しい「患者・目的・薬剤・用量・用法(経路)・時間(タイミング)」であることを確認し,注射や点滴,経管注入等の看護技術を用いて安全に実行することが求められる.さらに,患者の反応を観察し異常があれば速やかに対応する役割を担う.看護師の行う与薬は,極めて重要で責任の重い,複雑な業務である.臨床現場では与薬による医療事故を回避するため,薬剤に関する知識向上や作業の簡素化等に取り組んでいる.しかし,看護師による薬剤インシデントは減少しておらず,重大な医療事故もなくなってはいない.現場ではどのように教育体制や労働環境を改善すればよいか模索している.安全に与薬を実施するためには,適切な判断と,確実な与薬技術が必要である.その根拠となるのは,治療の理解であり薬剤の知識である.現場から看護基礎教育に望むことは,疾病の病態生理や治療法,薬剤のもつ多様な作用とその機序について理解を深めること,そして,看護師が行う与薬に潜む危険についての学習を実践に即して深化させることである.看護継続教育においては,薬剤についての知識や与薬に関する技術習得のための教育体制の強化や,与薬の手順遵守,慣れない薬剤を使用する際のリスク認識の強化などが課題である.薬剤に関する教育が,看護基礎教育から現任教育まで継続して行われることが医療安全強化につながる.医療事故防止にとどまらず,さらに退院後の生活を見据えた患者の服薬アドヒアランス維持向上のための介入や支援の強化につなげることが,急性期病院の看護の現場のさらなる課題である.

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